Italy Arc — Chapter 06
Night Before

「電話するの?」ソファからシルヴィが声をかけた。
私は腕を組んで振り向いた。 「明日……今夜はもう寝るよ」
「寝られないくせに」
彼女の言う通りだった。何年ぶりかに静香の声を聞くなんて……いったい何て言えばいい? ねえ、私、夏美。もしかしたら帰るかも。あの家に。毎夏、二人で外に座って過ごしたあの家に。
親指を噛みそうになって、慌てて止めた。 「変じゃないかな……。台無しにしたらどうしよう。ただ手紙を書くだけにしとく? それとも……何もしないのが一番安全かも」
シルヴィはすぐには答えなかった。沈黙は柔らかくて、でも空っぽではなかった。私はため息をついた。 「静香のことが怖いんじゃないの。またあの気持ちが蘇るのが怖いだけ。必死に鍵をかけて閉じ込めてきたものを、開けてしまうのが」
シルヴィはやっと紅茶のカップを置いた。 「だったら、そのまま閉じておきなさいよ」
私は彼女を見つめた。 「でももう、隙間から漏れ出してるなら……最初から鍵なんてかかってなかったってことじゃない?」
私はソファに沈み込み、隅っこに丸くなって膝を抱えた。シルヴィはあまりに落ち着いた目で私を見た。 「本当に今夜、電話する気?」
「……したい、とは思う」言い直した。「するべきだと思った」
「全然そう聞こえないけど」
「日本じゃもう遅いし」と、私は半分ほっとして言い訳をした。「明日の講堂からにするよ」
シルヴィは私をじっと見つめた。 「無理しなくていいよ。この旅行は法律的な手続きのためでしょ。家のこと。別の人生の人に連絡するためじゃない」
私は瞬きした。 「でも……黙って帰るのも気まずい気がして。忍び込むみたいで」
彼女は背もたれに寄りかかった。 「誰が到着を報告しろなんて言った? みんなに会いたくてウズウズしてるわけじゃないでしょ」
口を開けたけど、何も出てこなかった。
「まだ彼女を親友だと思ってるんだね。二人とも十代で、学校の噂話とソーダ缶を交換してた頃のまま。でももう違うの、夏美。あの頃は終わったのよ」
私は自分の手を見つめた。 「ただ……まだ終わってないふりをしたいだけかも」
「それでもいい。でもそれに決めさせてはいけない。電話したいなら、実際にそこに着いてから、現実になってからしなさい。失礼に思われるのが怖いから、じゃなくて」
部屋が再び静かになった。シルヴィは話題をそっと変えた。風がページをめくるように自然に。 「静香のことは忘れて、さっきのカフェの亮二って男はどう?」
私の気分が一瞬で明るくなった。 「見てたでしょ!? あのジャケット、あの声、あの目つき。レンツォをその場で消し去りそうな勢いだったよ! それであの小さな笑みを浮かべた瞬間……もう死ぬかと思った」
シルヴィはグラスの縁越しに私を見て、まるで興味なさそうに言った。 「『死ぬかと思った』にしては随分生き生きしてるじゃない」
私は大げさに手を振った。 「わからないのよ。あの人、映画みたいだった。もし呪われた浪人だってか、過去から逃げるスパイだって言ったら、信じるし、手伝うし、きっと恋に落ちて悲劇的に消えていくわ」
シルヴィがにやりとした。 「スーツケースに躓いて、彼も一緒に巻き込むんでしょ」
私はラグの上に仰向けに倒れ、両手を広げた。 「まるでフィルム・ノワールに頰骨が生えたみたいな人」
「あなた、相当ヤバいわよ」 「かもね」
シルヴィはグラスを置いた。 「前の謎めいた彼氏よりマシ? それとももっと?」
空気が少しだけ変わった。私はしばらく動かず、それから自然にバッグに手を伸ばしていた。指先に触れたのは、何ヶ月も持ち歩きながら一度も開けていなかった小さなフォトアルバムだった。

アルバムを開くと、シルヴィの目が少し大きくなった。写真の中で彼はカメラの外の何かを見て笑っていた。目にかかる髪、少年のような無邪気な笑顔――高校時代中、私の胸を締め付けたあの笑顔。
「わあ……」彼女は身を乗り出した。「かわいい。迷子の子犬みたい」
「まさにそれ」私は親指で写真の端をなぞった。「でも頼れなかった。ただ願うことしかできなかった。それが一番つらかった」
私は手の中の使い古されたアルバムの表紙を見つめた。

「かもね」
シルヴィは息を吐き、それから自分の膝を差し出した。私はそこに寄りかかり、アルバムを膝の上に置いた。
「ねえ、何を想像してるか分かる?」少ししてから、彼女は私の髪を優しく撫でながら言った。「亮二って、女の人に対してどんな感じなのかな。本当のところ」
私は顔を上げて彼女を見た。 「きっと激しいわ。あの美しくて壊れそうなエネルギーは、どこかにぶつけないと」
「本当にね。あの『苦悩する魂』ってやつを、完璧に体現してるもの」 彼女は少し間を置いた。「女の人を完全に駄目にするタイプだと思う」
「最高の意味でね」そう言ってから、頰が熱くなるのがわかった。
シルヴィがにんまり笑った。 「ほら、出てきた。やっと認めたね、彼に本気で惹かれてるって」
「そんなこと言ってない」
「言わなくても分かるわよ。声が急に色っぽくなったんだから」彼女は笑った。「危ない男よね? 頭のいい女でも馬鹿なことをしたくなる美しさ」
「本当に」私はアルバムを閉じてバッグに戻した。「だからこそ、近づかない方がいいんでしょうね」
「それとも」シルヴィはいたずらっぽく目を輝かせた。「思いっきり近づくべきかも。ただ、もし彼があなたの肌に詩を書くタイプだったら、絶対電話してね」
「約束する」
扇風機はまだ回っていた。電話は鳴らなかった。でも何ヶ月ぶりかで、私の心臓は再び激しく鼓動するのを思い出し始めていた。